貸し金庫ってなんだか面倒くさそう

私の父親が定年で退職金をもらったのを機に、銀行の貸金庫を利用することにしたそうだ。貸金庫だなんて、一体いくら退職金をもらったのかしらと気になるところではあるけれど…。私の実家では父親が財産管理をしているので、貸金庫を利用してからというもの、父親はちょこちょこ銀行に行くようになったそうだ。母親同様ズボラな私からすると、貸金庫ってなんだか面倒くさそうな気がしてならない。

そんなことを思っていたある日、父親が貸金庫を利用している銀行に用があっていくと、ちょうど父親とばったり出くわした。思いがけない場所で会う親子ほど気まずいものはない。私はバツの悪さから足早にその場を立ち去ろうとしたのだが、ちょうどそのとき一人の女性銀行員が父親に「こんにちは」と気さくに話しかけた。まだ20代前半と思しき髪の長い清楚な感じの女性だ。声をかけられた父親は、私がいるせいなのかバツが悪そうにしどろもどろになった。女性行員はそのままにこやかに立ち去って行ったのだが、私は、「ははーん」と察し、あえて何事もなかったかのように父と別れた。

貸金庫なんて口実で、父は実はあの女性行員に会いに行っていたのだと思う。思いが成就しても困るけれど、まあきっと成就することもないだろうから、父の淡い思いを私は誰にも言わずに黙っておくつもりだ。

貸金庫の年間使用料3万円。キャバクラに通い詰めることを考えたら…安いものかもしれない。